「人材育成」カテゴリーアーカイブ

高プロ人材のフリーエージェント社会は到来するか?

7月16日の日経朝刊1面トップに「プロ人材 移籍制限歯止め~働き方 自由度高く~」と題した記事が目に留まった。前文に
企業と雇用契約を結ばずに働くフリーのプロフェッショナル人材らの労働環境改善に向け、公正取引委員会は独占禁止法を活用する力関係の差を背景に企業が転職制限をかけたり引き抜き防止協定を結んだりして人材を囲い込む恐れがあるためだ生産性の高いプロ人材が働きやすい環境を整備することは日本の国際競争力強化にも欠かせない。
とある。最近テレビで、ラグビートップリーグで、移籍選手が移籍元の了解がなければ移籍先で1年間の試合停止を余儀なくされるとの制度が問題視され、見直しを検討するとのニュースがあった。日本代表にもノミネートされるような選手が1年間試合停止となるのは、世界と戦う日本にとって大きな損失だとの認識だ。
日経の記事によると、フリーランスの人材は企業と対等な関係で仕事を受ける専門職で、日本で約1122万人いるという。この中で、専門性が高いプロ人材と呼ばれる人や独立した自営業・個人事業主らはほぼ3分の1の約390万人だそうだ。米国ではフリーランス全体で約5500万人に上り、日本は欧米などに比べて専門性を持った人材活用が遅れている。
このような課題に対して、今まで独占禁止法は、原材料(鉄鋼など)に限定していたのを、スポーツ選手も含めたプロ人材にも拡大適用し、プロ人材を囲い込むための不当な取引条件や、獲得競争による報酬上昇を回避するためのカルテル是正を行う。例えば、仕事を発注する条件として競合他社との取引を長期間制限したり、自社で使う人に仕事を発注しないよう同業他社に求めたりすれば「拘束条件取引」や「取引妨害」になる可能性がある。欧米ではすでに労働市場への独禁法適用は進んでいる。オランダでは医師の引き抜き防止協定もある。
「フリーエージェント社会の到来~組織に雇われない新しい生き方~」(ダイヤモンド社、ダニエル・ピンク著、池村千秋訳、2014.8発行)によると、米国では組織に忠実に使える「オーガニゼーション・マン(組織人間)」から、組織に縛られない「フリーエージェント」が労働者の新しいモデルになりつつあるという。既に教育の現場も変化し、18歳未満の子供の10人に一人が在宅教育を受けている事実もあり、プロフェッショナル性をより高度なものにするための教育制度も、徒弟制度などが復活したり、高校をスキップして大学に行くなど多様な選択ができるようになるとの予測や、キャリアの考え方や働き方、部下の監視を主体とする管理職の価値の低下、定年退職の考え方の変化などが起こるとピンク氏は主張する。
近い将来さらにグローバル競争が激化し、仕事の高付加価値化が進み、AIが仕事の質を変える中で、1企業内で市場が要請する高度化人材を揃えるのはかなり困難になるのだろう。日本でもすばらしいプロフェッショナル人材や、個人事業者が力を発揮しているが、その評価と流動性は米国などに比べて十分ではないように思われる。政府は骨太方針「人材投資」を掲げる。同時に人材への独禁法適用など、制度的な充実も図りながら、企業と連携しながら高度プロフェッショナル人材の育成、流動化の促進を図っていくことが求められている。

「人を育てる」致知2016.12特集より

逆境を克服して成功された方の経験談や、年齢を重ねても世のため、人のために頑張っておられる方のお話など、大いに刺激をもらっている人間学を学ぶ月刊誌「致知」。2016.12月号の特集テーマは「人を育てる」。以下に事例二つを紹介する。
まずは、人材教育家として自ら起業(シュリロゼ)し、女性向け自分磨きスクールや、大企業をはじめ数多くの企業での社員研修を通じて、これまで数万人を指導して来られた井垣利英さん。表題は「人は生きている間に生まれ変われる」。
プラス思考の人は、それなりの人に出合う。そして、その人の考え方に共鳴しつつ実行に移し、素晴らしい人生を歩んでいるのが井垣さんだ。フリーアナウンサー時代に、突然の父の死から父の経営していた名古屋の塾を継ぐために帰省。塾の在り方を追求する中で、船井総研の船井幸男氏、国際ジャーナリストの落合信彦氏と偶然会う事ができ、そのアドバイスを受けて、思い切って東京に出て30歳で起業。井垣氏の人材育成のポイントは「自分を信じてプラス思考で素直に行動」だ。「すべてに感謝をすることがプラス思考の前提」と言い、人は無意識のうちに1日約7万回もマイナス思考を繰り返している中でプラス思考に持っていくには相当な訓練が必要という。そのためには、日常生活の中で「ありがとう」をともかくたくさん言うこと。「ありがとう」は地球上で最もエネルギーの高い言葉だが、「ありがとう」というべき場で「すみません」とか「どうも」と言っている人が多い、と言われる(私も思い当たること多し)。「言い訳は敗北の前兆」「一人一人が世界で唯一の存在、その価値に気付いて自分を大切にしてほしい」、人を育てる熱き心をマッチの火ではなくバーナーの火と自ら言い切る。
もう一つ紹介する。福岡県北九州市内にガソリンスタンド3店舗を構える野口石油の野口義弘社長の話だ。タイトルが「愛は与えっぱなし」。設立以来20年、140名に及ぶ非行少年を雇用して来て、今では3店舗ともお菓子が途切れたことがないほど、お客様から差し入れを沢山いただき、地域の人たちから様々な恩恵を受けて成り立っていると言う。しかし、非行少年を立ち直らせる道は、そう簡単ではなかったと振り返る。「うちに来て何事もなく1回で更生できる子はこれまで一人もいなかった」、再び非行を犯して少年院や鑑別所に送られていく。しかし、野口社長は「どれだけ信じても騙され、裏切られる。それでも信じ続けた」と言う。彼らは一様に幼少期からの親からの愛情不足が非行の根底にある。だから、彼らと話をするときは嘘を言われてもずっと黙って聞く。絶対に茶々を入れずに目線を合わせて彼らの話を最後まで聞く。そして「見返りを期待せず、愛は与えっぱなし」の精神で接することで、再犯を繰り返しながらも「野口社長に申し訳ない」との気持ちが生れ、再犯1回目より2回目、2回目より3回目と反省の心が生れてくる。どんな場合でも「解雇はしない」というのも徹底している。会社のお金を持ち逃げしてもクビにはしない。会社に来なくなると電話ではなく、迎えに行く。奥様も次男も保護司をされているとの事だが、野口社長も「これからも非行少年の更生にこの身を捧げていく」との覚悟をされている。非行少年の更生の話だが、「人を育てる」ための基本が明示されている。

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素読のすすめ

スマホ中毒の弊害と読書離れの悪影響に警鐘を鳴らし、素読の必要性を訴える脳科学者で、脳トレの先駆者川島隆太氏(東北大学加齢医学研究所所長)とテレビのコメンテータとしても有名な明治大学文学部教授斎藤孝氏との対談記事が「致知2016.12」に掲載されている。斎藤孝氏も数多くの素読の実践をベースに、その意義を伝え続けておられる(声に出して読みたい日本語)などの著書多数)。
川島氏はかねてから、きわめてプアなセンテンスでやり取りしているSNSに警鐘を鳴らされている。仙台市の7万人の子供たちの脳を7年間調べ続けているそうだが、スマホやSNSの利用と学力との関係が明らかになってきたという。すなわち、これらを使えば使うほど学力は低下するという。脳の中の学習した記憶が消え、例えばSNSを1時間やると、百点満点の5教科のテストで30点下がるとのこと。
一方で、読書は作者の脳みそ、すなわち考え方との対話と考えることができるが、目で追うだけではなく声に出す、手で書くということで、視覚、聴覚、運動情報を多く使うことになりより記憶に刻まれることになる。さらには、人間の前頭葉の中心、ちょうど眉間の上あたりに背内側前頭前野という高度なコミュニケーションを司る部分があり、お互いの気持ちが通じ合っている時には、その脳の揺らぎが同期することが今年初めて分かったそうだ。このことは、江戸時代の寺子屋での論語などの素読をベースにした教育法が、生徒たちの脳の同期を促し、一体感を生むものだったことにつながる。斎藤氏はNHKの「にほんごであそぼ」に携わったとき、幼児も含め、子供たちには難しい言葉の意味が分からなくても面白がって次々に覚える、敢えてこちらが説明を加えなくても言葉の奥行に自然と興味を持ってくれることにとても関心を抱いたという。
イギリスやフランスでも文豪の著書を学校教育で暗唱する教育がなされているが、明治維新の原動力にもなった日本の暗唱文化が失われていることに両氏は警鐘を鳴らす。さらには家庭でも親が本を読まず、子供と食事をするときも親がスマホをいじったり、テレビを見たりしている現状を嘆く。幼少時代、母親からの読み聞かせで童話を全部暗誦できるまでになった川島氏は「それが自分の読書の原点」といいつつ、家庭と学校双方が、再度読書と素読の重要性を認識し、若い人たちのスマホ中毒の蔓延を双方が力を合わせて防ぐことが重要と訴える。ちなみに斎藤氏は著書「親子で読もう実語教」、「子供と声に出して読みたい童子教」(共に致知出版社刊)などを出版されている。これらは江戸時代の子供たちが使っていた素読の教科書で、企業から市町村や学校への寄贈も相次いでいるそうだ。

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